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名古屋高等裁判所 平成元年(行コ)3号 判決 1989年9月25日

名古屋市熱田区六野2丁目6番地

神宮東パークハイツ25-801号

控訴人

亀田基子

右同所

控訴人

亀田美葉

右同所

控訴人

亀田晋

名古屋市昭和区山脇町4丁目28番地

控訴人

亀田佳生

右亀田佳生法定代理人親権者父

亀田虎雄

同母

亀田基子

右控訴人4名訴訟代理人弁護士

竹下重人

名古屋市中区三の丸3丁目3番2号

被控訴人

名古屋国税局長 杉崎重光

右指定代理人

木田正喜

外3名

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

原判決を取消す。

被控訴人が控訴人らに対し,昭和61年8月27日付納付通知書をもつてした第二次納税義務の告知処分は,いずれもこれを取消す。

訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者双方の主張並びに証拠関係

当事者双方の主張は,次に付加する他,原判決事実摘示のとおりであり,証拠関係は,本件記録中の原審及び当審における各書証目録に記載のとおりであるから,いずれもこれを引用する。

(控訴人らの主張)

徴収法39条の「法定納期限」について,次の主張を加える。

1  現行の国税通則法および国税徴収法は「国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限」すなわち,法律の規定により,直接に,一定の日または一定期間の末日として定められたものを「法定納期限」とし,確定した租税債務の履行の期限を「納期限」または「納付の期限」として,画然とくべつしているのであつて,第二次納税義務の履行期限,保証による国税の履行期限など,税務署長の処分によって,確定した納税義務の履行の期限として「指定される納期限」は,「法定納期限」に含まれないことは明らかである。しかるに,「法定納期限」に国税通則法52条2項同法施行規則別紙第4号書式の「納付の期限」を含める解釈は,徴税当局者の解説や通達に見られるだけであって,明文の根拠を欠くものである。

2  滞納者から財産の贈与または低額譲渡の場合の第二次納税義務の制度は詐害行為取消訴訟制度の変型であり,旧徴収法4条ノ7においてその課税原因となる資産の譲渡が「納期限ノ2箇年前マデ」とされたのも,詐害行為取消権の時効期間との照応を考慮したものと思われる。

しかしながら,右の制度は,行政手続によるものとしては,強力にすぎるのでないかとの批判もあったので,新徴収法においては,第二次納税義務の課税の要件としての利益供与の態様を拡大し,滞納者についての主観的要件を削除するとともに,利益供与の時期「法定納期限より1年前」に限定したものである。

3  このことは,旧徴収法3条の「納期限ノ1年前」という規定が,前述したとおり年税が中心である滞納国税との関係で利害関係者の予測可能性を著しく害することはないと考えられていたことと同様に所得税,相続税,贈与税の課税期間が1年であり法人税についても大部分の法人の事業年度は1年であることを考慮したものと解される。

したがって徴収法39条は,同徴収法2条6号所定の納税者(本来の納税義務者および源泉徴収義務者)が国税を滞納し,その者につき滞納処分を執行しても徴収すべき国税の額に不足すると認められる場合にだけ適用されるべきものであって,保証人が保証による国税を滞納した場合や,第二次納税義務者がその第二次納税義務を滞納した場合には適用がないものと解すべきである。

4  仮に,原処分または原判決のように,徴収法39条にいう「法定納期限」に保証人または第二次納税義務者に対する納付通知書による「指定納期限」が含まれるものと解するならば,保証人または第二次納税義務者と取引をする者は,税務署長から何時発せられるか予測することもできない納付通知書の「指定納期限」を考慮して財産上の取引をしなければならないこととなり極めて不安定な法的状態におかれることになる。これは,租税徴収の合理化と第3者の法的利益の保護との調和を企図してなされた徴収法全文改正の趣旨に反するといわなければならない。

5  したがって,保証人が財産を処分する等により,保証による国税の徴収が不安となつた場合には,税務署長は通則法51条による担保の変更を命じるか,徴収法39条の発案の基礎である詐害行為取消訴訟の制度を活用すべきものであって,同条の解釈を曲げて第二次納税義務を課することは許されないものというべきである。

(被控訴人の主張)

1  控訴人らは,徴収法39条にいう「法定納期限」に保証人又は第二次納税義務者に対する納付通知書による「指定納期限」が含まれるものと解するならば,保証人又は第二次納税義務者と取引をする者は,税務署長から何時発せられるか予測することもできない納付通知書の「指定納期限」を考慮して財産上の取り引きをしなければならないこととなり極めて不安定な法的状態におかれることとなり,租税徴収の合理化と第3者の法的利益の保護との調和を意図してなされた徴収法全文改正の趣旨に反する旨主張する。

しかし,租税と担保付債権との優先劣後を決定する時期については徴収法15条以下に規定され,担保制度に対する租税債権と私債権との優劣が定められ,その時期を租税債権の法定納期限等と担保権の設定の先後によることとして,私債権と租税債権との調整を図っている。そして,保証人又は第二次納税義務者として納付すべき国税の法定納期限等は,特に徴収法15条1項9号に規定され,租税徴収の合理化と第3者の法的利益の保護との調和を図っているのである。

2  そもそも納税者が,その所有している資産を第3者に無償譲渡したことから納税者が無資力となり,国税の徴収が困難となった場合には,税務署長等は,形式的な財産の帰属を否認し,納税者から無償譲渡を受けた第3者に対し,納税者の滞納に係る納付義務を負担させる必要が生じる。この目的を達成させる制度が徴収法39条に規定する第二次納税義務制度である。

また,税務署長等から納税保証人として許可された者が,その所有している資産を第3者に無償譲渡したことから納税保証人が無資力となり,納税の猶予をした国税の徴収が困難となった場合には,税務署長等は,形式的な財産の帰属を否認し,納税保証人から無償譲渡を受けた第3者に対し,滞納者の滞納に係る納付義務を負担させる必要が生じる。この納税保証人についても徴収法2条6号の納税者に当たることはすでに主張したとおりであり,徴収法39条の第二次納税義務を負う者にも当たるのである。

なお,控訴人らが主張するような「予測することが……という極めて不安定な法的状態におかれる」という主張は前記「1」で主張したように保証人に対する納付通知を発した日を基として優劣を判定するもので何等不安定な状態に置かれるものではない。

3  控訴人らは,保証人が財産を処分する等により,保証による国税の徴収が不安となった場合,徴収法39条の発案の基礎である詐害行為取消訴訟の制度を活用すべきである旨主張する。

しかしながら,租税に対する詐害行為のすべてを訴訟によって処理することは,租税徴収の簡易,迅速な確保を期するうえで適正でない。一定の法律要件の基に訴訟によって詐害行為の取り消しを行ったと同様な効果を行政処分によって達成するために徴収法39条が設けられたのである。したがって,現徴収法上,保証人は納税者に該当し,納付の期限までに保証に係る国税を納付しなかったことにより,当然同法2条9号の滞納者となっているのであるから,第二次納税義務制度の立法趣旨からも控訴人らに第二次納税義務を課した処分は適法であるというべきである。

したがって,本件についていえば,虎雄が,自己の唯一の財産である不動産を控訴人らに贈与することによって,自己の納税義務を免れようとしたことは明らかであり,これを黙認することは徴税の公平の原則からして,到底許されるものでなく,被控訴人の行った本件告知処分に何等違法はない。

理由

一  当裁判所も控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく,これを失当として棄却すべきものと判断するが,その理由は原判決20枚目表10行目の「ないし(三)」とあるのを「(二)」と改め,当裁判所の判断を付加する他,原判決理由説示と同一であるから,これを引用する。

(当裁判所の判断)

1  控訴人らは,徴収法39条の「法定納期限」を,同法2条10号に定める「国税に関する法律の規定により国税を納付すべき期限」として一般的に定められた納付の期限であるとし,通則法52条2項の「納付の期限」のように個別的に指定される納付の期限を含まないとする。徴収法39条の適用にあたって,本来の納税義務者がその財産を無償ないしは著しい低額で譲渡したというような場合については,「法定納期限」が控訴人ら主張のように解すべきことは当然であるが,納税保証人のように,税務署長等の納付告知によって本来の納税義務者の滞納分を納付する者の場合については,控訴人ら主張のように解することは相当でない。なぜなら,まず右2条10号の規定には「一般的」なる文言は入っていないから,「法定納期限」に個別的に定められた納付の期限を含めて解することに文理上の障害はないし,かつ,納税保証人については国税に関する法律である通則法52条2項でその納付の期限に関する定めをしているから,この期限を「法定」の期限と解することについても支障のないところである。したがって,「法定納期限」に,通則法52条2項の「納付の期限」が含まれるとの解釈を採り得ることは,法文上何ら疑義がないといわれなければならない。更に,翻って徴収法39条の法意を実質的に考えると,納税保証人に対し同条の適用を除外することは徴税に著しい不公平をきたすことになるし,また,徴収法,通則法の解釈上も同条の滞納者の中に納付期限までに国税の納付をしない納税保証人が含まれることは前記のとおり(原判決引用)であることからすれば,「法定納期限」の意味について独自の解釈を行い,その結果として,納税保証人について同条の適用はないと結論づけようとする控訴人らの主張は,理由がない。

2  控訴人らは,徴収法39条における「法定納期限」に納税保証人に対する「納付通知書に記載された納付の期限」を含むと解するならば,納税保証人と取引する第3者に不測の損害を与えることになると主張する。

たしかに,納税保証人に同条を適用するときは,その納付の期限が,第3者から見て必ずしも明白であるとは言い難いことから,そのような危惧を全面的に否定することはできないかもしれない。しかし,同条は納税義務者が,その義務を懈怠しながら,第3者に無償または著しく低い対価による財産譲渡等をなし,このため国税の納付ができない場合であって,その一方で,当該国税の法定納期限の1年前の日以後の処分に限定し,かつ,前記のような第3者にとって有利な行為によって取得した利益が第3者に現存するというときに限り,徴税の公平化,効率化の観点から,その善意悪意を問わず,滞納税額の限度で第3者に納税義務を負わせるものである。ここで法の趣旨とするところは,その対象期間算定の基礎になる納付書に記載された期限が前記の趣旨で明白でないことにより,第3者がうけるかもしれない不利益については,徴収法39条の定める限度でこれを考慮し(なお,同法15条についての後記判示参照),その限度内における第3者の不利益については,国税徴収制度の目的に鑑み,やむを得ないものとしていると考えられるので,控訴人らのこの点に関する主張も理由がない。

なお,質権等と国税債権との優先関係については,国税優先の原則を堅持しつつ,私法上の公示の原則も踏まえて徴収法15条以下において調整されており,納税保証人についても15条1項9号において納付通知書を発した日をもって「法定納期限等」とされているのである。これは納税保証人にも「法定納期限」のあることを前提に両債権の優劣調整の点では格別の定めをしたものと解すべきである。したがって,同法15条を捉えて納税保証人に「法定納期限」がないことの論拠とすることは相当でない。

二  よって,これと同旨の原判決は相当であるから,本件各控訴を棄却することとし,控訴費用の負担につき民訴法95条,89条,93条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宮本増 裁判官 谷口伸夫)

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